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08 入院-2週目-

私は、入院二週目から、面会の日を2日に1度にした。

面会の時には、発症の頃の妄想の話は相変わらずあったが、どんどんと大きくなっていくことは無く、私が聞く現実の話に対しては、ちゃんと受け答えできるようになった。

歩き方が、パーキンソン病の人のようだな…と感じたが、それ以上に気になる事があった。

入院してからの息子は、新しい妄想が出てきていた。

たいてい、「夢を見たんだけど…」という言葉で始まった。

・オレが退院しないと、この病院が爆破される。

・もうすぐ、俺のせいで、看護師さんたちが大変なことになって、俺は他の病院に行かされる。

・オレの担当の看護師さんは、もうすぐ外されて別の人になる。

「夢を見たんだけど…」という言葉で始まるが、実際にはそんな夢は見ていないと思う。

その妄想が、本当ではないような気がしているから、ちがうよと否定されるのを恐れて、夢の話にしているのではないか?

入院している事に対する不安が、こんな内容の妄想になってしまっているんではないか?

面会の時、息子の話は、予知夢のような妄想の話か、攻撃的に私を責める話だった。

その話を止めるにはどうすればいいのか?止めていいのか?聞いた方がいいのか?一緒に話に乗った方がいいのか?それは妄想だよと、はっきり否定した方がいいのか?黙って聞きながすのか?

とても些細な事かもしれないけれど、私の受け答え方が、息子の病気の回復に関係するのではないか?

どうすればいいのか、主治医に聞きたかった。

 

ある日の面会の時に、私は息子に言った。

「入院がどのくらいになるかわからないけど、しっかり治療すれば良くなるから、今は色々考えずゆっくりしなね。」

すると息子は、

「オレ、退院したら警察官になるから。」

ああ、妄想の話かと思いながら、「うん、まぁそれもいいかもね。でも、警察官になるなら、試験受けないといけないし、高校は卒業しないといけないから、まだ先だね。」

と言うと、

「イヤ、おれ、試験受けなくても警察官になれるから。」

なんで?

「一番偉い人、なんだっけ?警視総監?あの人が、待ってるからさ。」

ふぅ、妄想の話、忘れてなかったんだ。最近は、新しい妄想ばかりだったから、以前の発症した頃の妄想は、もう忘れたのかと思っていたけど、そうではなかった。

どんなに偉い人が知り合いでも、警察官は、試験も受けずにコネで入ることなんて出来ないよ。そしたら、誰でも入れちゃうでしょ。

すると息子は少し考えて、「じゃあ警察官の試験勉強しなきゃ。問題集、買ってきて!!」

「……」

「次に来る時絶対!」

わたしは頷くしかなかった。

主治医に聞きたかった。妄想の中の話のせいで勉強しようとしてるけれど、それはやらせていいんですか?

私は何もわからなかった。

けれど、その日も主治医はおらず、私は帰りに警察官試験問題集を買い、思った。

差し入れの時に、チェックするだろうから、そこで抜かれる。息子も、医者がダメだと言ったらあきらめるだろう。

ところが、その問題集は、息子の手元に届けられた。

これをやるということは、絶えず妄想の中の話と繋がるということではないのか?

いいの?

医者は、息子の妄想の話を知らないの?

息子に聞いてみた。

主治医の先生って来るの?

すると、毎朝来るけど、「どうですか?」って聞かれるから、「別に変わりません」って、答えるだけ。と。

他にはなにか聞かれない?

「いつも同じ」

私は再び、精神保健福祉士さんに連絡をしてみた。けれど不在やお休みで、ついに入院中に精神保健福祉士さんに会うことはできなかった。

私の医者への不信感は募っていった。

ナースステーションで、主治医と話がしたいから、いつなら良いのか聞いておいてもらい、仕事中に電話をして予定を聞き、やっと主治医に会うことが出来た。

まずは、新しい妄想が出ていることや眠れないと言ってることなど伝えた。

すると、先生はしばらく考えていたが、薬がちゃんと効くのには2週間はかかります。今のところ、薬の副作用は無さそうなので、少しづつ増やしていき様子を見ましょう、と。

細かなことをいろいろ聞きたかったのに、何も伝えられなかった。無知な私は、聞きたいことがありすぎた。

精神病という、この大きな括りの病気の中で、現時点での息子への受け答えなんて、ちっぽけで、大局に影響ないのかもしれないとすら思った。

結局、主治医と話してはみたものの、私の不安や疑問は、何も解決しなかった。

今は、病院に任せるしかないのだ。

私は、精神科のプロではない。

不信感はあるけれど、少なくとも私よりはマシなのだ。

そう自分に言い聞かせた。

09入院-3週目ー

コメント

  1. ピアス より:

    こんにちは。当事者生活35年の男です。早いと思われるかも知れないですが、今から親亡き後に備えて下さい。病状がほぼ安定しても一般就労が出来るかまだ分かりません。なので、初診日が未成年者ですから国民年金の規程により障害年金が貰えます。なので手続きをして受け取りましょう。

    • 森の民 より:

      ピアスさん、ありがとうございます。私がいなくなったらという未来のことは、とても大切だと思います。
      今はまだ息子も若いし、私も働いていますが、この先まだまだ何があるかわかりません。
      ピアスさんのおっしゃる通り、障害年金は、大切な選択のひとつだと思います。
      けれど、発症から丸3年以上経った今でも、息子は障碍者手帳の申請をしていません。
      本人にも、手帳の話はしてありますが、社会でクローズで働きたいようなのです。

      いつか、息子が障碍者として暮らすことを受け入れられたら、年金の申請も自然のこととなるかと思います。
      コメントありがとうございました。

  2. さるる より:

    家族が入院中のさるると申します。

    感じている戸惑いが同じで涙が出そうになりました。

    主治医になかなか会えない事、代わりに相談するよう言われた社会福祉士さんが休みや外出でいつも不在な事、ゆえに病状についての疑問や心配事がたまったままで何週間も時間だけが過ぎてゆきました。

    唯一の情報源が患者である家族なので、妄想めいた内容に(それ本当なのかなあ)と困惑しましたし、看護師さんに何か聞こうにも患者である家族がそばに居るために聞きづらくて諦めたり。

    かなり積極的に行動しないと病院側とコンタクトが取れず、いつも不在なのは避けられている?など普通の入院とは全く違う状況に悩みっぱなしでした。

    お気持ち、すごく分かります。

    • 森の民 より:

      さるるさん、コメントありがとうございます。

      私は看護師なので、病院の事も入院の事も分かっているはずなのに、なぜこんなにも何も出来ないのかと思いました。

      さるるさんと同じで、聞きたくても、本人が横にいたら聞けない事ばかりでした。

      あの頃は、気持ち的にも落ちていたので、ブログを書くなど思いもしませんでしたし、誰にも話せず孤独でした。

      100人に1人はいるはずの統合失調症なのに、私の周りにそれらしき家族はいません。
      きっと、私と同じように、誰にも話せず孤独なのかもしれないと思い、ブログを書くことにしました。

      1人じゃないよ。私も同じ。
      そんな気持ちです。

      ですから、さるるさんが、共感してくださってとても嬉しいです。
      ご家族が入院中とのこと。辛いことかと思いますが、きっと良くなると信じてお互いがんばりましょう。

  3. みぃ より:

    お気持ちすごくわかります。
    娘の入院していたときと同じです。

    精神科の先生って、こんな感じなのでしょうか?
    今も通院していますが、自身の言いたいことだけで、こちらの質問には答えてくれず
    いつもわからないことだらけで、不安がいっぱいになります。
    いろいろ聞きたいのに、なかなか会ってももらえず。。
    そんな感じでした。

    同じ悩みをもつ家族が他にもいるはずなのに、誰にも相談できずにずっと悩んでいました。

    • 森の民 より:

      みぃさん、娘さんは、発症してまだ1年でしたね。

      私も色々な方のブログやネットを見ました。そして、情報のあまりの多さに、どれを信頼して良いのか混乱しました。

      ただひとつ、私が他の家族と違うのは、看護師であるため、病院の世界が何となくわかるということでしょうか。

      私の友だちで、精神科ナースを志した友人は、誰よりも心の優しい子でした。
      精神科の医師が、患者に心を寄せすぎたあまりに、発症したという事もあります。

      そんなバックヤードを考えながら、さらに、最良の道を。王道の治療を。受けさせたいと考えていました。

      病院や医師については、賛否両論いろいろありますが、みぃさんが後悔の無いように出来るといいですね。

      私も、自分と同じ気持ちを分かってもらえる みぃさんと知り合えて、良かったです。

      これからも、お互い忍耐強くがんばりましょう。

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