寝てばかりの日々に、決して、怠けているからとか、やる気がないからとか、思わないようにしたい。身体も頭も、何もかもが動かないのだと思う。動かなければならないことはわかってるけれど、出来ない辛さ。
トライアスロンをやり切った直後の選手に、「ほら!怠けてないで動きなさい!」とは言わない。へとへとで動けないことがわかっているから。けれど、この病気は目には見えないから、疲れや辛さがどれほどのものか推し量るしかない。
大地は、トライアスロンを終えたばかりの選手と同じ。疲れてへとへとなのだ。だから休まなければならない。「大丈夫だよ。きっと良くなる。また動けるようになる。」そう、自分に言い聞かせながら過ごしてきた。
この陰性症状かと思われる時期を振り返ってみると・・・
何かやりたいことがないかと、たま~に、1~2か月に一度くらい聞いてみたけど、「ない」「別に」と言われたときに、「まあさ、ゴロゴロ過ごしていると、そのうちやりたいことが出てくるらしいよ。それまでは寝て過ごせ~」のように言った。「寝て過ごせ~」「お!えらいね、寝てて」「ココア(飼い犬)みたいに寝てな~」とかは、何回も何回も言ったな~。
最初に、ベッドに座って遊戯王カードをパラパラと触っていたのは、それをやりたいという気持ちの芽生えだったのかもしれない。やがて、友だちと遊戯王カードをするようになるのだけれど、「意欲」とか「やりたいこと」というのは、勉強や仕事ではなくて、こういった些細なところからスタートするのかもしれない。
毎晩毎晩、友だちとゲームをしに出かけ、家の中では寝ているかゲームをしているか動画を見ているか…。この時期は、長かったな~。それでも、友だちのお宅に迷惑でないのならOKと止めなかったし、家の中でゴロゴロしていても、どこかに出かけてしまうことを考えたらこっちのが安心。怠けてるなんて、思いもしなかった。
そして、やっと出てきたかと思われた「やりたいこと」は、警察官試験を受けようと思うというものだった。
妄想と関係していた警察官試験の勉強を始めた時、主治医やNEAR(認知機能リハビリテーション)をしたセンター病院の有名な先生も、「おお~、いいじゃない!」と否定しなかった。私が、「(警察官には)なれないんじゃないかと思うし、妄想が関係している気がして…」と尋ねた時も、「まあね、おかあさん、意欲が出てきたのはいいことだから」と、毎回「どう?がんばってる?」と応援しているようだった。だから私も、受けてほしくなかったけれど、「がんばりな~!」と言う事にした。やるだけやって、ダメならまたその時考えようと思った。
大地の、やりたいことに向かう意欲は、少しづつ少しづつ育てられていったんだと思う。
陰性症状の間は、良くなることがちっともわからない。毎日毎日同じことの繰り返しだから。何か、ちょっと良くなった気がしても、またすぐに戻ってしまう。一緒に暮らしていると、日々の進歩なんてわからない。
けれど、こうして振り返ってみると、ああ、良くなっていったんだとしみじみとわかる。
それでも陰性症状真っ只中の時は、「もしもホントに一生寝て過ごしたらどうしよう。。。」とかも、思った。
何度も不安になりながら、「大丈夫!きっと良くなる!」と信じる反面、そのうち「もしも、一生寝てばかりで、家からほとんど出ることなく過ごすことになったとしても、それでもいいかな。」とも思うようになった。
もしもこの陰性症状がずっと続いたら・・・私の老後の面倒は大地に見てもらえる。私が年老いて病気になったら、近くの病院くらいには連れて行ってくれるかもしれない。倒れたら、救急車くらいは呼んでくれるかもしれない。社会に出られなくても、私におかゆを作るくらいはできるようになるもしれないしね。今は、健康であっても独身を通す人も多いし。
私が死んだらどうするか?そしたらその時は、病院か障がい者施設か、行政になんとかしてもらおう。その時はその時。私が健康で長生きすればいいんだし。そしたら私も大地もきっとそんなに困らない。私が100才まで生きたら、大地もそこそこの高齢者。そのくらいの年齢になったら、施設に入る人も普通にいる。
もしも大地が統合失調症にならなかったら、高校を卒業すると同時に家を出たと思う。そしてめったに帰ってこなかったんじゃないかと思う。そのうち結婚でもしちゃったら、お嫁さんと自分の家族が一番になる。それでいいんだけど、高齢になった私は、放ったらかしになっていたかも。。。
けれど病気になったから、もしもこの寝てばかりの生活が続いたら、ずっとずっとず~っと私と暮らすことになる。私の老後は安泰じゃない!?
とはいえそこはやっぱり母として、今できる最善の事をしたいと思っていたから、主治医に言われた、「そのうちやりたいことが出てくる」という言葉にすがって、のんびり構えるようにしていたようにも思う。
そんなわけでね、陰性症状の酷いとき、「大丈夫、そのうち意欲が出る」と自分に言い聞かせると同時に、「大丈夫、別に意欲が出なくたって」とも思ってた。
私は、大地と暮らす未来に「自分の幸せ」を見出していたよ。私の老後を大地が見てくれるという幸せ。大地にとってそれは幸せではないかもしれないけど、よく考えたら、私はすごく幸せだよね。(ゴメン大地)
2014年3月に発症した大地は、丸3年寝続けて、それから少しづつ少しづつ、起きて活動する時間が増えていった。
そして発症から丸4年と少し経った2018年6月現在、今のところは、バイトも大学も楽しんでいる。
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