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02 散歩をする


大地は、ほぼ寝ていたため、家から出ることはなかった。

そこで私は、仕事から帰宅すると、どこかへ出かけたいという大地を車に乗せて、スーパーへ買い物に出かけた。

買い物は、2~3日に1回で良かったのだけれど、毎夕出かけるのが、私と大地の日課になった。

重い荷物を持ってくれるお礼に、パンやお菓子、アイスなどを1個だけ買ってあげた。

帰りの車の中で、大地は「美味い!」と言いながらニコッと食べていた。

子どもが美味しそうに食べている様子は、こちらも満たされた幸せな気持ちになる。

夜は、2人で犬の散歩に出かけた。

毎晩、大きくなった息子と2人で散歩するなんてこと、あるだろうか。

大地は小さな頃から何でも1人でやってしまう子だった。4歳の時には、近所の小学生にくっついて、早朝カブトムシを取りに行くような子だった。寝ている私に、「行ってくるね」と声をかけて、しばらくすると「かあさん!でかいトンボ!!」と言って、まだヤゴから出たばかりのオニヤンマを捕まえてきたり、日中もセミとかカマキリとか、遊ぶのに夢中で、お腹が空くか、水を飲みに帰ってくるくらい。

家の中でも、弟が2人いたためか、私の横に座ったり、抱っこされに来ることもなかった。

1番、スキンシップの少ない子だった。

それがどうだろう。

病気の為とはいえ、こんなに一緒にいられる時間があるなんて!

散歩に行くと、何も話さないこともあったし、大地の話を聞いたりもした。妄想の話はあまり出なくなっていたが、ときどきはあったし、過去の事で私を責める話も、たまにはあった。

けれど、散歩中の話は、小さい頃の大地が、どんなに可愛かったか。どんなにヤンチャだったか。私が、やんちゃな大地をどんなに愛おしく思っていたか。できる限り、そんな話をした。

「大地がまだハイハイしてた頃さ、大きな犬が散歩してて、大地どうするかと思ったら、どんどん近づいて行って、触ろうとしたんだよ!母さん、まさかあんなに近づくと思わなくてびっくりしたよ。昔から大地は、動物が好きだったよねー」

「大地が生まれた瞬間はね、母さんは嬉しくて嬉しくて、泣こうと思わなかったのに涙が止まらなくてね。滝のように涙が出るってああいうことなのかも。」

「まだスプーンを使うより前の、手づかみで食べるのが大事だった頃、大地は納豆が好きでさ。納豆をぐちゃぐちゃ手づかみで食べて、顔もねちょねちょになったんだよ。でも、嬉しそうにニーッて笑ってた。その姿が可愛くてさ。」

そんな、大地が覚えていないような小さい頃の話をした。そして、大地が生まれてどんなに嬉しかったか。どんなに幸せな気持ちだったか。

そんな話をした。

「今もさ、大地が統合失調症にならなかったら、こんな風に散歩なんてしてくれなかったでしょ。」

「おぉー、とっくに家出てた。」

「良かった〜。なんか、他のお母さん達よりラッキーかも。

でもさ、大地の病気がどんどん良くなって、寛解した頃には、母さんが年取ってヨボヨボになってるから、その時は、大地が母さんを散歩に連れていきなさいよ!」

「えー!やだよー」

「何言ってるの!大地がずーっと家にいてくれたら、母さんの老後は安泰だよ。」

「やだよ。オレは家を出るからね」

「ハイハイ。それならそれでいいけどさ。まぁ、今はこうやって散歩できて、とにかく良かったよ。」

19歳の息子と散歩できる、

そんな幸せもある。

03 昼夜逆転する 


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コメント

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